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UX,IoTの本質を理解するための「融けるデザイン」

先月に購入して、読んだっきりだった「融けるデザイン」という本についての感想と、その本の内容を少しだけ紹介しようと思う。

 

 

融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論

融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論

 

 

簡潔にいうと、この本は「UXとIoTの本質」について書いている。

世界が変わったのだから、デザインも変わらなくてはならない。

これからのものづくりのための最重要キーワード
「自己帰属感」を軸に、情報を中心とした設計の発想手法を解き明かす。

 

本を読んで印象に残ったところがたくさんあるが、ほんの一部を切り取りたい。
この本の目次は以下の通りだ。

 

はじめに――融けてゆく世界

第1章 Macintoshは心理学者が設計している

第2章 インターフェイスとは何か

第3章 情報の身体化――透明性から自己帰属感へ

第4章 情報の道具化――インターネット前提の道具のあり方

第5章 情報の環境化――インタラクションデザインの基礎

第6章 デザインの現象学

第7章 メディア設計からインターフェイス

 

道具の透明性

普段から僕たちは、道具を無意識的に使っていることが頻繁にある。例えば、眼鏡。
かければ体の一部となり、視力を上げるための拡張ツールとして人間の能力を向上させる。かけている間、常に眼鏡を意識することはなく、無意識に「透明性」を持ち、それを道具として意識しなくなる。旧石器時代のように、ハンマーを持つとそれを意識せず、自分の体の一部として釘を打つことが可能になる。

現代のヒューマンインターフェイスの研究目的の一つに、「原因と結果が直接的な関係になること」がある。道具の透明性とは、道具を意識せず利用している状態、意識しなくなる現象のことを指している。

 

 

iPhoneの設計はなぜ優れている?

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iPhoneのデザインは美しい、サクサク動くから好き。僕がずっとiPhoneについて思ってきたことであり、これをiPhoneで読んでいるのなら、あなたもそう思っているはずだ。

デザインが美しく、サクサク動くのは紛れもない事実だが、なぜiPhoneがそうであるのか、という理由と意味を知らなかった。

 

「指とグラフィックとの高い連動性が道具的存在となり、自己帰属感をもたらす。そしてその結果、道具としての透明性を得るためだ」


iPhoneの登場以来、多くの会社がそれを真似たプロダクトを作った。しかし、なぜiPhoneが人に心地よいプロダクトなのかという理由について理解できていなければ、それは越えられないという。

 

設計というのは思想や視点の集積であり、設計とは考え方である。だからAppleはヒューマンインターフェイスガイドラインを策定し、考え方を言語化するのだ。

 

 

なぜ透明性が重要なのか

眼鏡をかけ、視力を上げる。ハンマーを持ち、釘を叩く。キーボードを叩き、文字を入力する。道具と身体が連動すると、道具は透明になりながら、僕たちは無意識化でそれを利用している状態になる。すなわち「身体の拡張」が可能となる。「道具の透明性」の必要性は、力を得ようとする人間の根本的な欲求から来るものである。

 

環境の透明性

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情報を環境側に実装していくことのメリットは、何も身につけなくてもその恩恵を受けられることである。

道具の透明性と同時に、僕たちは環境的存在としての情報技術について考えていく必要がある。この観点にあるのは、「ユビキタスコンピューティング」である。

Wikipediaでは、ユビキタスコンピューティングを以下のように定義している。

 

ユビキタスコンピューティング(ubiquitous computing)は、コンピュータがいたる所に存在(遍在)し、いつでもどこでも使える状態をあらわす概念である。

 

しかし、この本の作者はこう定義する。

 

ユビキタスコンピューティングは、コンピュータのパワーを使いながらも「人間はそれをまったく意識しないでその恩恵を受ける世界」を想像した技術の考え方である。

IoTという言葉が再び使われるようになり、モノとインターネットのつながりは強固になるが、有線と無線でつながれた数百台ものコンピュータは、僕たちが存在を意識しないような形で溶け込む。いつの間にか、新たな携帯電話としてスマートフォンが普及し、いつの間にかその携帯電話は「インターネット」に無意識的につながっている。「そうでなかったもの」が「そうであって当然」に代わっていく。

最も完全な技術は、表面に出てこない技術である。

 

深澤直人氏のデザイン

作者の渡辺恵太氏は、物質の発想から逃れ、人間の自然な行為にとって合理的なデザインとして、深澤直人氏の「傘立てのデザイン」を挙げる。

↑ 著者 渡辺恵太氏の記事。傘の画像が記事内にある。

 

深澤氏は、四角い枠の箱をデザインせず、玄関の壁のすぐ近くの床に直線的な溝を引き、そこに傘の先端を引っかけ壁に立てかけるという発想をする。

 

著者が深澤氏のデザインを紹介する理由は以下の通りだ。

 

彼のデザインがユビキタスコンピューティングの思想と同様に、「人にとっての環境の透明性」の実現のヒントになるからである。

 

行為や意識に対応する設計。共通の学問分野として「生体心理学」がある。

 

ギブソンの生体心理学とインタラクション

 僕はこの本がUX、インターフェイスデザインの分野では初めてなので、知らなかったが、インターフェイスデザインについて学んでいれば、ほぼ確実に「アフォーダンス」という言葉に出会うらしい。アメリカの知覚心理学者、J.J.ギブソンによって構築された生体心理学のキーワードだ。

 

アフォーダンスとは、「環境にある行為の可能性」を示す言葉である。アフォーダンスの考え方は、さまざまな行為が可能であること(能力)とは、自身に内在する力だけでなく、環境があって初めて可能になり、人間を含む動物の知性を記述するうえでは、主体となる動物だけで語ることができず、環境と切り離せないというものだ。アフォーダンス - Wikipedia

 

ギブソンは「刺激から心」というモデルをたてる「間接知覚論」とは異なり、「直接知覚論」を展開する。環境は情報が構造化されているものであり、環境と人間は一つのシステムとして成立し、知覚と行為によって環境と人間が接続されているように捉える。通常の心理学では、「外部からの「刺激」→感覚→脳→人が「イメージ」を持つ」という主張になるが、ギブソンの定義する「直接知覚論」では、知覚と行為によって環境と人間が接続されているように捉える。

 

つまり、環境と知覚、身体、行為は切り離せず、知覚対象を客観的に見ることはできないということだ。

 

新しいUXの基礎

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「とにかく自己帰属させる」。これがこれからのUXの基礎となる。自己の拡張感。道具を得、それを利用し、パワーを得ている恩恵の実感。スマートフォンが体の一部となり、腕時計がインターネットを通して体とつながり、眼鏡が知性を持ち私たちを拡張させる。IoTという流れが様々なデバイスを巻き込み、ユビキタスコンピューティングの世界を作っていくとき、そこに「自己帰属感」が生まれる。

 

 

 

 

UX,IoTを語る上で必須の、認知心理学や身体と道具の関係性について丁寧に書かれている本。実は私が取り上げた部分というのは序盤を少し過ぎたあたりのほんの一部分である。著者の作品について書かれている部分なども多く、非常におもしろい。

著者の渡辺恵太氏が実際に研究のために作ったものをネット上で体験できる。

 

融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論

融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論

 

 

UX,IoTの本質を抑えたい方はぜひ読んでほしい一冊だ

 

 

Keita Watanabe | Interaction and Application Design Research